この記事では主な種類や服用時の注意点も交え、パニック障害に効果的な治療薬を紹介します。
パニック障害は、突然の強い不安感や恐怖感を伴う発作が繰り返される病気です。症状の影響はその影響は患者本人はもちろん、周囲の家族やパートナーにも及びます。
パニック障害と診断された方への適切な薬物治療を行うことは、パニック障害の発作を軽減し、日常生活を取り戻すために大変重要な選択肢のひとつです。
本記事では、薬物療法の特徴も交え、パニック障害に効果的な治療薬を解説します。
- 症状の発生頻度や重症度をおさえられる点で、パニック障害の治療に薬は効果的
- SSRIやSNRIなどがパニック障害の主な治療薬
- 薬の効き目には個人差があり、副作用がある点には注意が必要
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医療法人清陵会 保有資格:精神保健指定医/公認心理師/厚労省認定認知症サポート医/日本精神神経学会専門医・指導医/臨床精神神経薬理学専門医
日本医師会認定健康スポーツ医/メンタルヘルス運動指導士/産業医/DPAT先遣隊隊員/日本老年精神医学会専門医・指導医
普段は精神科医としてたくさんの患者様と接しています。日々の診療では、精神科受診における不安を少しでも改善できるよう、患者様との対話を重視しています。当然のことですが、患者様それぞれ症状や目標は異なっており、一人一人症状や目標に合った最適な治療を選択することを心掛けています。
パニック障害の治療に薬は効果的
大前提として、パニック障害の治療に薬は効果的です。
パニック障害の主な治療には、薬物療法と心理療法(精神療法)が用いられます。なかでも、薬物療法は発作の頻度や重症度をおさえられる点で、重要な治療の選択肢となり得ます。
薬物療法の目的は発作そのものを減少させるだけでなく、予期不安を軽減し、日常生活における機能を改善することです。
パニック障害の薬物療法とは?
パニック障害における薬物療法とは、発作の頻度や強度を減少させ、患者の日常生活を改善する治療手段です。主に症状の早期軽減を目的として使用されます。
主に薬剤としては「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」が使用されます。SSRIを使用することで、脳内のセロトニン濃度が上昇し、不安感やパニック発作をおさえられます。SSRIは比較的副作用が少なく、長期的な治療に適しているため、広く使用されています。
また、一時的な治療として、急性の発作を迅速に鎮静する効果のある「ベンゾジアゼピン系抗不安薬」が使用されるケースもあります。ただし、ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、依存するリスクがあるため長期的な使用は避けるべきです。
薬物療法は発作のコントロールだけでなく、予期不安の軽減や生活の質の向上をもたらします。結果として、パニック障害の患者は自身で症状を管理する基盤を構築できます。
薬物療法の効果を最大化するには、医師の指導の下で適切な薬剤と投与量を選択し、定期的な治療効果の評価が不可欠です。
心理療法(精神療法)との違い
治療に薬物を使用しない点で、薬物療法と心理療法には大きな違いがあります。
心理療法(精神療法)は、パニック症状の根本的な改善を目指す治療として非常に重要です。特に、心理療法では科学的にも裏付けされた「認知行動療法(CBT:Cognitive Behavior Therapy)」が広く用いられています。
CBTは、患者がパニック発作を引き起こす思考パターンや行動を理解し、それに対処するスキルを学ぶのが目的です。具体的に、パニック障害の治療に用いられるCBTには次のような種類があります。
- 認知再構成法:恐怖や不安を引き起こす状況を再評価し、反応を修正する治療法
- エクスポージャー(曝露:ばくろ)療法:回避行動を減らすため、段階的に不安を感じる原因へ触れることで、恐怖を克服していく治療法
また、マインドフルネスも心理療法の一環として取り入れられるケースがあります。マインドフルネスは、ストレス管理や心身のリラクゼーションを促進し、パニック発作の予防に寄与する点で効果的です。
上記の技法を通じて、パニック障害の患者は発作に対する予期不安を軽減し、発作に対処する自信を築けます。
心理療法は、薬物療法と併用することで治療効果を最大化できます。特に、長期的な視点での症状管理や再発予防において有効です。
薬物療法と心理療法をうまく組み合わせ、個々に適した治療を取り入れることが、パニック障害の治療において重要となります。
市販薬と処方薬の違い
下記の点で、市販薬と処方薬には違いがあります。
- 入手方法
- 医師の関与の有無
- 有効成分の強さ・種類
市販薬はドラッグストアなどで購入でき、一部の薬を除き軽度の症状に対して、用法用量に従い自己判断で自由な使用が可能です。
一方、処方薬は医師が患者の症状や病歴を評価した上で処方され、医師の指示の下で量や飲むタイミングが決められます。
また、軽度から中等度の症状へ対応するため、市販薬には比較的濃度の低い有効成分が含まれています。ただし、処方薬はより強力な効果を発揮する高濃度の有効成分や、特定の病状に特化した成分が含まれているケースが多いです。
処方薬に比べ、市販薬は入手や使用のハードルが下がります。しかし、安全な使用には医師の指導の下で服用薬を選択することが重要です。
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パニック障害の治療薬の主な種類
ここからは、パニック障害の治療薬の主な種類を、5つ紹介します。
- 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
- セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)
- トリシクリック抗うつ薬(TCA)
- モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、パニック障害において主要な治療薬の1つです。
現在の日本においてパニック障害に治療適応のある主なSSRIは、パロキセチンとセルトラリンです。ただし、症状や状況からその他のSSRIが選択されることもあります。
脳内のセロトニン濃度を高めることで不安や恐怖を軽減し、パニック発作の頻度や強度を抑えるのが、SSRIの効果です。効果の発現まで数週間かかることが多く、服用初期にはあまり効果を実感できないこともありますが、多くの場合徐々に改善がみられます。
即効性がないことから、場合によっては初期に抗不安薬などと併用されることもあります。副作用として、胃部の不快感といった消化器症状をきたすことも多いです。ただし、多くの場合は服用を続けていくうちに副作用は軽減します。
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI:Serotonin Noradrenaline Reuptake Inhibitor)は、SSRIに次ぐパニック障害の治療薬です。
SNRIには、ベンラファキシンやデュロキセチンが含まれています。セロトニンだけでなくノルアドレナリンの再取り込みを抑制し、神経伝達物質のバランスを改善することで、不安やパニック発作を軽減します。
なお、日本においてSNRIはパニック障害の治療適応とはなっていません。しかし、米国ではベンラファキシンがパニック障害の適応薬として、治療に有効であるとされています。
SSRIと同様にあまり即効性は期待できないため、抗不安薬を併用することもあります。
三環系抗うつ薬(TCA)
パニック障害の治療において、三環系抗うつ薬(TCA)は歴史のある治療薬の1つです。
TCAは、セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、神経伝達物質のバランスを整えることで不安やパニック発作を軽減します。
しかし、TCAには口渇(こうかつ)や便秘・眠気など、抗コリン作用をはじめとした副作用の強い側面があります。
そのため、前述したSSRIやSNRIを優先的に服用するケースが多いです。SSRIやSNRIが効果を示さなかった場合や併用療法で使用されるのがTCAというわけです。
モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)
モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)は、脳内のモノアミン酸化酵素を阻害することで、セロトニンやノルアドレナリン・ドーパミンの濃度を高め、不安やパニック発作を軽減します。
ただし、MAOIは他の薬剤や特定食品との相互作用が強く、高血圧危機といった重篤な副作用を引き起こすリスクがあります。そのため、最近ではほとんどパニック障害の治療で使用されることはなくなりました。
セロトニン症候群は、パニック障害の薬物療法を行う上で特に注意すべき副作用です。セロトニン症候群とは、SSRIやSNRI・TCAなどセロトニンの作動を促す薬剤の服用中に激しいイライラやソワソワ、激しい発汗・手足の震えなどの症状が出る症状です。
セロトニン症候群か疑わしい場合は、薬剤の減量や中止を考慮する必要があります。「もしかしたら」と思った際は、すぐに医師へ相談しにいきましょう。
パニック障害におすすめの治療薬
よくインターネット上で「パニック障害におすすめの薬」というテーマが取り上げられています。しかし、パニック障害を持つ方に一律しておすすめできる薬というものはありません。
薬は患者の性別や年齢、息苦しさ・動悸などの症状から、医師がその人にあう処方を行います。そのため、おすすめの薬は一人ひとり異なるのです。
薬を使用するときは自己判断で使用するのではなく、医師の判断のもと用法用量を守り、正しく使用することが大切です。治療薬は、医師へ相談したうえで服用するようにしましょう。
上記を踏まえ、パニック障害に効く主要な処方薬を詳しく知りたい方は、次の記事を参考にしてください。
パニック障害の治療薬は医師に相談してから服用しよう
パニック障害の薬物療法は、医師へ相談してから服用することが重要です。
知識がなく自己判断で薬を服用すれば、症状が悪化することもあります。パニック障害の治療薬には、薬の効果が出るまでに時間を要するものも多いため、自己判断で中断しては離脱症状をきたす恐れもあるのです。
薬を飲んだり飲まなかったり、適切な用法で使用していない場合、薬の効き目や服用が原因で副作用が出ているかの判断が困難になります。
安全かつ適切に治療できるよう。薬は医師の指示のもと使用しましょう。
薬の効き目には個人差がある
薬の効果には個人差があります。治療状況によって、薬の量や飲むタイミングも変わります。
薬の効果がない、あるいは少ないからといって自己判断で治療を中止するのはやめましょう。薬の効き目が感じられない際は、中断する前に必ず処方された医師へ相談してください。
副作用が出る可能性もある
薬は服用することで副作用が出る可能性もあります。副作用が出た場合、症状の程度によって、薬の服用を継続するかが決まります。
服用を続けるかは、自身で判断せず、医師の意見をあおぎながら決めましょう。ただし、薬の服用を始めてから明らかに激しい副作用が出ており、医師に相談できない場合は救急病院へ行くことも必要になるかもしれません。
副作用についてより詳しく知りたい方は、下の記事を参考にしてください。
→ パニック障害の薬に副作用はある?症状例や服用時の注意点も紹介
まとめ
今回は、薬物療法の特徴も交え、パニック障害に効果的な治療薬を解説しました。
パニック障害の治療において、薬物療法はとても重要な選択肢です。心理療法と併用することで、最大限の効果を発揮し、症状の軽減や生活の質向上が目指せます。
ただし、薬を使用するときは医師の指示のもと、適切に服用するのが重要です。パニック障害は適切な治療を行うことで、十分に完治が期待できる病気です。
焦らず、医師の指示のもと根気強く治療していきましょう。
なお、周りにパニック障害について話せる人がいないと悩んでいる方は不安・パニック障害に悩む7万人の方が参加する、不安パニック専門のオンラインサポートコミュニティ「nicot+(にこっとプラス)」にご参加ください。
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