この記事では効果や治療の流れも交え、パニック障害の認知行動療法の特徴を解説します。
認知行動療法ってどんなものなんだろう?
認知行動療法はどれくらい効果があるのかな?
パニック障害の心理療法として代表的なものに認知行動療法(CBT:Cognitive Behavior Therapy)があります。認知行動療法とは、歪んだ認知を変えることで、気持ちや行動を望ましいものに置き換えることを目指す心理療法です。
パニック障害を持つ人への高い効果が報告されており、薬物療法と並行して進めていくことが一般的です。
認知行動療法の効果を最大限に発揮するには、パニック障害を持つ人自身の治療意欲が重要とされています。したがって、認知行動療法とはどのようなものなのかを知っておくことが重要です。
そこで、本記事では効果を交え、パニック障害の認知行動療法を解説します。段階別で治療の流れも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
- 認知行動療法はパニック障害に効果的
- 認知行動療法では非現実的な思考を現実的な思考・行動に置き換えることを目指す
- 治療効果を発揮するには、患者の積極的な姿勢と意欲が必要不可欠
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パニック障害における認知行動療法の効果
認知行動療法は、患者の思考(認知)と行動の両方に働きかけることで、パニック障害の症状を改善する治療法です。ここからは、パニック障害に対する認知行動療法の効果を、4つにまとめて紹介します。
- 認知の歪みを修正できるようになる
- 不安場面への適応が目指せる
- 予期不安を管理できるようになる
- 再発防止につながる
効果1:認知の歪みを修正できるようになる
パニック障害を持つ人が認知行動療法を受けると、症状における認知の歪みを修正することができます。
パニック障害を持つ人は、現実的ではない飛躍した思考や考え方を抱いていることがあります。たとえば、パニック発作が起こったときに「死ぬかもしれない」と極度の不安に陥るといったものです。
認知行動療法を受けると、このような歪んだ考え方を修正し、客観的な視点で現状を見つめられるようになるでしょう。
効果2:不安場面への適応が目指せる
治療が進んでいくと、不安場面への適応も目指せるようになります。これまで避けていた状況や場所が、実はそれほど危険ではないことを学んでいくのです。
認知行動療法のなかでも特に効果的な治療法とされているのが「曝露療法」です。暴露療法とは、恐怖を感じる場面や対象に段階的に触れ、克服していくことを目指した治療法を指します。
パニック障害を持つ人は、認知行動療法の経過のなかで暴露療法を受け、徐々に不安場面に適応していきます。次第にパニック発作の頻度や強さを減少させることが可能です。
効果3:予期不安を管理できるようになる
不安場面に適応しパニック発作そのものを減少させることができれば、予期不安を管理できるようになります。
「外出先でパニック発作が起きるかもしれない」という慢性的な不安は、外出や行動に制限をかけるものです。日常生活そのものに支障をきたすこともあります。
認知行動療法では、呼吸法やリラクゼーション技法を通して予期不安の管理を目指します。予期不安の軽減や消失は生活の質を向上させるだけでなく、パニック障害の完治にもつながります。
効果4:再発防止につながる
認知行動療法で身につけたスキルは、パニック障害の再発防止に役立ちます。
パニック障害を持つ人は、認知行動療法の治療を通して自分の考えや思考のパターンを学びます。そのため、治療後はパニック発作の前兆にも早めに気づくことが可能です。
また、考え方と行動を変化させていることで、直面した課題を現実的な思考で捉えることができます。治療前よりもストレスなく、建設的な解決策を見つけることができるでしょう。
変容させた考え方や行動に慣れていくことで、再発を予防することができます。薬物療法を受けている患者の場合、併せて薬を減らしていくことができれば、より生活の質が向上するでしょう。
パニック障害の認知行動療法に取り組む流れ
ここからは、パニック障害における認知行動療法の流れを、8つの段階に分けて解説します。
- 初期評価・アセスメント
- 心理教育
- セルフモニタリング
- 認知の再構成
- 暴露療法(エクスポージャー)
- 呼吸法・リラクゼーション法の学習
- 行動実験
- 再発防止の計画立て
1.初期評価・アセスメント
認知行動療法の最初のステップは、初期評価とアセスメントです。初期評価とアセスメントとは、患者とセラピストが現在の症状をきちんと把握し、治療のゴールを設定する作業です。
初期評価では、セラピストがパニック発作の頻度やきっかけ、持続時間などを詳しく質問していきます。同時に、それらが患者の生活に与える影響についても聞き、現状を客観的に整理し評価します。
初期評価とアセスメントは、現状の整理とともに認知行動療法を通して最終的にどうなりたいかを両者で共通の認識として持てるようにする工程です。
また、パニック障害で不安になる原因を詳しく知りたい人は、下の動画も参考にしてください。
2.心理教育
心理教育は、患者自身がパニック障害のメカニズムを知り、自分の現状を理解するために行われるものです。初期評価・アセスメント後に実施されます。
セラピストは、パニック発作とは正常な身体反応であるものの、過剰に恐怖を感じている状態であることを説明します。そうすることで患者は自分の症状を誤解しにくくなり、恐怖を俯瞰的に捉えることができるようになるのです。
心理教育によって自分の症状を正しく理解することで、不安や恐怖の軽減を目指します。
3.セルフモニタリング
セルフモニタリング(自己観察)とは、自分の思考や感情、身体反応を認識して記録する作業です。セルフモニタリングを行うことで、次第に自分の認知や行動のパターンがみえてきます。
日常生活の中でいつどのような状況でパニック発作が起きているか、そのときどう感じたかを都度記録します。この記録は、習慣化させることが大切です。
後に記録を見返すと、自分の思考パターンがわかるだけでなく、パニック発作が起きるきっかけが見えてきます。きっかけが明確になれば「発作が起きたときにどうすればいいのか」という具体的な代替案を見つけ出すことが可能です。
セルフモニタリングによって自分の思考・行動を客観的に観察し、変化させていくことを目指します。
4.認知の再構成
セルフモニタリング後は、認知の再構成をします。明らかになった自分の思考パターンやパニック発作のトリガーをもとに認知や考え方を修正し、正しいものに置き換えていきます。
つまり、パニック発作が起きないような、より望ましい考え方を習得していくのです。認知の再構成にあたっては、セラピストから提供される新しい視点を参考にして非現実的な考え方を修正していきます。
パニック障害を持つ人自身の治療意欲や、セラピストの意見を取り入れる柔軟性が鍵となります。
5.暴露療法(エクスポージャー)
認知行動療法が順調に進むと、暴露療法(エクスポージャー)に挑戦することとなります。暴露療法は、恐怖や不安を感じる場面にあえて挑むことで、不安を軽減させていく治療法です。
患者は、狭い場所や人込みなど、パニック発作を引き起こしそうな場面に身を置きます。軽い状況からはじめて、少しずつ難易度を上げていきます。
段階的に恐怖や不安を引き起こす状況に慣れていくことで、それを回避しようとする考えや行動を減らすことを目指します。パニック発作が起きなかったという成功体験を積み重ねることで、徐々に恐怖心や不安感が減少していくのです。
6.呼吸法・リラクゼーション法の学習
呼吸法やリラクゼーション法を習得することで、パニック障害の身体的な症状を管理できるようになります。たとえば、腹式呼吸や筋弛緩法を使えば、不安場面での身体的な緊張をほぐすことができます。
筋弛緩法とは、体の筋肉をわざと緊張で固まらせたあと、力を抜くことを繰り返すリラックス法です。筋肉をわざと緊張させることで、脱力した際により深い心地よさを感じることができます。
腹式呼吸による深くゆったりとした呼吸や、筋弛緩法の心地よさは、心身をリラックスさせるものです。リラックス状態になると副交感神経が優位になり、ストレス軽減につながります。
パニック発作が起きたとき、患者が自分自身の力でそれをコントロールしたり和らげたりできると安心です。外出へのハードルも下がり、生活の質の向上にもつながるでしょう。
7.行動実験
行動実験では、これまでに修正した認知や行動を体験的に確認します。患者が想像しているような恐怖場面は実際には起こらないこと、現実とは異なることを身をもって理解する過程です。
たとえば、患者が「パニック発作が起きたら逃げることもできずその場で倒れる」といった恐怖を持っているとします。その場合、セラピストと一緒に実際にその状況を試してみます。
実際に試してみても、想像しているような最悪な状況は起きないことを確認できれば、目標達成です。患者は行動実験を通して、想像上の恐怖は現実的ではないことを体験的に理解し、学んでいきます。
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8.再発防止の計画立て
認知行動療法の治療(セッション)が終了しても自分で対処できるよう、再発防止の計画立てを行います。ここでは、患者がセラピストに依存せず、自分で不安を乗り越えられるようなスキル獲得を目指していきます。
認知行動療法が終わっても、不安やパニック発作が起きる可能性はあります。そのようなとき、認知行動療法によって変容させた認知や行動を維持できていることが大切です。
治療中に得られた効果を維持していくための計画は、患者によってさまざまです。たとえば、セルフモニタリングやリラクゼーション法の継続などが挙げられます。
再発防止の計画を立てることで自分の状態を客観的に把握し、仮に問題が起きても自力で早期に対処できる可能性が高まります。
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パニック障害の認知行動療法を受ける4つのポイント
パニック障害の患者が認知行動療法を受ける際、次の4つポイントに気をつけることで最大限の効果が期待できます。
- 積極的に治療に参加する
- 目標を設定する
- セルフモニタリングを習慣にする
- 長期的な姿勢で治療に臨む
ポイント1:積極的に治療に参加する
認知行動療法を受ける際には、積極的に参加することが非常に重要です。認知行動療法は、患者自身が自分の思考や行動を理解して修正していくことが必要不可欠な治療法です。
セラピストの存在ももちろん重要ですが、患者が自分の問題を解決しようという姿勢で治療に取り組むことが必要になります。自発的に課題に取り組み、スキルを習得することではじめて効果を発揮します。
セラピストと信頼関係を築き、積極的に治療に取り組んでいきましょう。
ポイント2:目標を設定する
治療の最初に具体的な目標を設定しましょう。目標を立てることでモチベーションの維持につながるだけでなく、治療効果を実感しやすくなります。
目標は具体的かつ現実的なものを設定し、さらにそれを小さなステップにわけ、ひとつずつ達成していけるとよいでしょう。段階的な目標を設定することで達成感を得やすく、治療が進んでいることを実感できます。
たとえば、「予期不安を減らす」「避けている場所に慣れる」など何でも構いません。治療の進行状況に応じて定期的に目標を見直し、修正することも重要です。
ポイント3:セルフモニタリングを習慣にする
認知行動療法を通してセルフモニタリングを習慣にできるよう努めましょう。セルフモニタリングは、自分の感情や思考、行動のパターンを把握する上で基礎となるものです。
パニック発作が起きるきっかけを明確にし、どの部分を修正していくか理解するための重要な材料となります。日頃から習慣化できていると理解が進みやすくなり、治療効果促進に役立ちます。
日記やメモなどを用いて、自分の感情の変化やパニック発作の状況を記録しておきましょう。
ポイント4:長期的な姿勢で治療に臨む
認知行動療法には、長期的な姿勢で臨むことが大切です。認知行動療法は即効性のある治療ではなく、少しずつ認知や行動に変化をもたらすものです。
短期的な変化や一度のセッションでの劇的な改善を期待するのは控えましょう。最初に設定した小さな目標を少しずつ達成していくことを意識できると安心です。
とはいえ、認知行動療法で目に見えた効果がなければ焦る気持ちも湧いてしまいますよね。治療に意欲的であれば、その気持ちは尚更でしょう。
パニック障害の認知行動療法によくある疑問
最後に、パニック障害の認知行動療法によくある疑問へまとめて回答します。
- 認知行動療法はどこで受けられる?
- 認知行動療法の効果はどれくらいの期間で出る?
- 認知行動療法はどんな人にも効く?
- 認知行動療法と一緒に薬は服用してもいいの?
- 認知行動療法に副作用はある?
認知行動療法はどこで受けられる?
認知行動療法は、精神科、心療内科、心理カウンセリングセンター、大学の付属機関などで受けることができます。医療機関であれば保険適応になるケースもあるため、気になる場合は相談してみましょう。
認知行動療法を受けるには、まずは精神科や心療内科を受診し、医師に症状を相談します。医師によって診断がつき、治療には認知行動療法が適していると判断されれば、実施されることとなります。
多くの場合、病院内に所属する心理療法士(セラピスト)が実施しますが、予約が多くすぐに治療開始できないことも珍しくありません。その場合、外部の心理カウンセリングセンターや大学の付属機関を紹介されることがあります。
認知行動療法の効果はどれくらいの期間で出る?
認知行動療法の効果を実感できるまでには、個人差があります。また、効果実感までの時間はパニック障害の症状の重さによっても異なるものです。
一般的に認知行動療法は12~20セッション受けることが推奨されています。週1回受けた場合、治療期間の目安は3~6ヶ月です。多くのケースでは、この期間で徐々に症状が軽減するといわれています。
下の記事では、パニック障害の治療期間について詳しく解説しているため、あわせて参考にしてください。
→ パニック障害の治療期間はどれくらい?目安と早めるポイントも紹介
認知行動療法はどんな人にも効く?
認知行動療法は、パニック障害の状態が悪いときや患者自身に治療意欲がない場合、効果を発揮しないことがあります。
効果を発揮させるためには、積極的な姿勢で具体的な目標を持って治療に取り組むことが大切です。
認知行動療法と一緒に薬は服用してもいいの?
主治医の判断によっては、薬物療法と認知行動療法を並行することがあります。薬物療法はパニック発作の急性期に即効性があるため、短期的に症状を緩和させるのに有効です。
しかし、認知行動療法を受けることで症状の根本的な改善を目指すことができます。認知や行動を変化させ、自分で問題に対処できる力を獲得していくことが重要です。
医師の指示に従い、薬を上手く活用できるとよいでしょう。
認知行動療法に副作用はある?
薬物療法と異なり、認知行動療法に身体的な副作用はないとされています。
ただし、治療の過程で一時的に感情の変化が起きたり、心理的負担を感じたりする場合があります。これを副作用と捉えることもできますが、多くは正常な反応であり、治療の進展につながるものです。
治療が負担に感じられる場合、ペースを調整することが可能です。不安なことはセラピストに相談しましょう。
まとめ
本記事では、パニック障害の治療法である認知行動療法について、流れやポイントを詳しく紹介しました。
認知行動療法は、パニック障害の心理療法の中でも特に効果が期待できるものです。セラピストと並走するイメージで治療に取り組むことで、最大限の効果を発揮します。
治療中に生じる悩みはセラピストに積極的に相談できるとよいでしょう。
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